これまで当社は、自家精米にこだわりを持ってきました。昔は精米所を自前で持つ藏は格上に見られたとも言いますし、農家から精米所ではなく直接藏に搬入される方が、サンプルは必ず付きますが信頼感がありますし、たまに来社される農家さんや見学者を精米所にご案内すると納得していただけるように思いました。藏にはどなた様も見学お断りの場所、例えば麹室がありますが、精米所はいくら見られても、順番さえ間違わなければ品質への影響ないため、いい見学材料ではあったのです。
ところが長年どう取り組んだらよいのか悩んでいた地球温暖化ですが、政府も大きく踏み出し、2050年カーボン排出実質ゼロを目標にすると宣言しました。当社としては、グループ保有山林でカーボンリセットをまずPRしながら、製造設備の排出削減等諸施策を行うことで、環境問題へも率先して取り組む蔵元という姿勢を示すとともに、先代の林業への執念にも報いることとしました。これにより、原料の調達、輸送も含むすべての過程でのCO2削減に取り組む一環として、精米は委託する方針に変更することに決めました。
現在、約90%の原料米は自社で精米し、残りの最高級ランクの山田錦については、産地にも近く、各種センサーも付いた高性能な精米機を多数運用する専門業者に委託しています。これを、全量委託にし、経費削減だけではなく、産地内もしくは産地から藏への輸送経路にあたる精米工場で精米すれば、藏には白米のみ輸送され、運搬量、ひいては排出ガス量も抑制されます。藏においても場所の有効活用、電力その他経費が削減されます。最近では全国的に有名な藏でも委託精米でよいと割り切られる藏も多く、当社の精米機がインバーターはついていても30年以上経った老朽機であり維持費も嵩んでいることから、委託転換は品質向上にもなると判断しました。
また遠い将来はわかりませんが、今は今、大きな目標のために、これまでのこだわりは捨てる、そういう時もあっていいと思いました。面倒さに負けないためここに表明します。1年かけての転換作業になると思います。また機械を処分等しないと跡地が利用できません。仕込藏全体の改善のためにうまく活用するためには、それこそ何年もかかると思います。そういう意味では経過点のひとつにすぎないことです。