水への愛情

万葉歌枕での名水仕込み
水こそが藏の個性を決める

当蔵の仕込み水は藏内の井戸を精密濾過して、使用しています。
藏の敷地には井戸が4つあり、一旦屋上にポンプで汲み上げられ、紫外線殺菌や活性炭及び微細孔の空いたフィルターを通して冷却のうえ貯蔵されます。このうち西端の1つは新瓶詰場の瓶火入れ及び冷却専用にしています。
藏の中心から北西方に直線距離110mにある中言(なかごと)神社境内の井戸が紀州名水50選「万葉黒牛の水」として守られており、藏も殺菌、濾過設備の管理に参加しています。これと同じ水脈の井戸であり、藏を訪れる方に即時に仕込み水の提供をできる体制ではありませんので、仕込み水を飲んでみたいという方には予約のうえ、参拝をお勧めいたしております。【黒江933番地 電話073-482-1199】
分析によれば仕込水の硬度は、ドイツ式で6.3アメリカ式で112.5と弱硬水になります。 適度なミネラル分があると、強い発酵力が得られることから、酒に勢いと旨味を加えるため、当社の酒質は、幅と旨味のある味わいとなります。
酒が発酵するためには、微量なミネラルが必要となり、純水では酒が湧かないそうです。それはそれで利点もあり、ミネラルの少ない軟水では、酒は繊細で綺麗なタイプとなる傾向があるといいます。

日本酒で地域性や風土を語る

酒質に影響を与える要因を考えていくと、原料である米がまず挙げられますが、穀物である米は、もちろん地元の米を用いることは多かったのは事実ですが、むしろ伝統として遠くからでも良質の物を集めてきたという歴史もあり、蔵元の力や方針を示す部分もあります。
次に日本酒の製造工程の長さや複雑さから、携わる人間の技術水準や、チームワーク、管理、育成のレベルが大きな要因となります。これが名杜氏という者が出現する理由になっています。蔵元から見た場合、真の経営力が試される部分です。
さらに藏の設備も大きな要素ですが、他の要素との適合性や運用の巧拙も大切な部分です。蔵元にすると意志や経営判断、先見性も必要となり、単に資本力で決まるものではないと思います。
そして水ですが、離れた場所から仕込み水だけを運ぶという手段も無くはないのですが、コストから考えて仕込みの全量で取り得る手段ではなく、藏の個性として残る最後の要素ではないかと考えられます。硬水、軟水と言っても同じ硬度の水でもミネラルイオンのバランスはそれぞれ別個であり、その藏の仕込み水は、その藏オリジナルなものであり、藏の個性の源泉であるという考えを私は持っています。
最後に藏の持つ歴史や気候、風土といった背景があり、これらすべてが藏の個性を作り上げているのです。日本酒において、藏が所在する地域の風土をどう反映しているか、ワインついての用語から安易に用いることにできる限り避けたいのですが、敢えて「テロワール」を考えた場合、水は重要な位置を占めると私は考えます。

紀の国の名水