米への想い

原料米の調達方針

  • 契約栽培の推進へのこだわり 蔵元自らが農家を訪問し田圃を視察するようにして、優良農家との関係づくりを大切にしています。
  • 酒造好適米へのこだわり 和歌山県内の山田錦も大事にしていますが、あくまで最良の酒米を兵庫、岡山、滋賀、北陸等から選りすぐって集める方針です。
  • カーボンゼロに向けた産地調達、原料輸送、精米 可能な限り近い産地、輸送時のカーボン排出を抑制する精米方法、米ぬか等すべての物の循環を意識しています。

2019-2020製造シーズンの原料米の種類及び産地

・30俵張1基
・20俵張1基

契約栽培への注力

1989(平成元)年当時、山田錦はほぼ兵庫県でのみ栽培され、入手困難な状況でした。和歌山県内では酒造好適米の栽培は行われておらず、まず山田錦の入手に努めるとともに、まず県内でとにかく酒造好適米栽培の実績を作るため、まさに直接農家と契約して美山錦を栽培してもらいました。
これは1990(平成2)年から 2013(平成25)年、まで続きましたが、やはり山田錦を県内で得たいという想いと、種籾の確保の問題、まったく直接の関係ではかえって栽培方法、作付面積が伸びず停滞してしまいました。この間、県外の酒米産地からの購入実績を積んだため、米穀業者が農家との間に入り種籾、資材の供給の他、栽培技術の提供等が可能となり、199(平成11)年から和歌山県産の山田錦の契約栽培を始めることができ定着した結果、2006(平成18)年には和歌山県においても、奨励品種として山田錦が登録されました。当社は、栽培関係の行事、会組織等はありませんが、奨励品種になれるかどうかで検査の問題等でハンディキャップが大きく、普及に貢献できたことは自信にもつながりました。
とは言え地勢的制約から栽培面積、栽培効率、技術面での制約が大きく、酒藏の所在する地域や、その風土との関係性についての考え方からも、県内での栽培も、棚田を守る意義も理解し尊重していくものの、主要な部分においてはやや範囲を広げても、有力酒米産地から選りすぐりの優良原料米を確保するという方針に、当社はシフトしてきました。
もちろん蔵元自身が長年どう参加すればよいのか悩んできた地球温暖化への協力のため、自社なりに輸送中の排出CO2削減にも取り組みます。すなわち、自社精米から、米産地から藏への移送の間で、精米してしまう方針に2021(令和3)年転換しました。

当社が考える日本酒におけるテロワールとは

昨今テロワールTerroirというワイン由来の用語が日本酒の業界でも使われるようになりました。多くは好意的に、藏の置かれたトータルな環境が酒質に反映されること、されるべきことを積極的に評価しようという流れですが、日本酒の伝統や製法等をすべて理解したうえで使われているのか、やや懸念も感じられる気がします。
たしかに酒米の産地に酒藏を作ったり、藏の近くの米で酒造することを重視する藏が増えています。これは差別化の一環としては自由なことでひとつのポイントではありますが、そうでなければいけないという主張には反論せざるを得ません。
ワインは果実酒、日本酒は穀物酒、ワインは単発酵でより原料の出来不出来が品質に反映するのに対し、日本酒は並行複発酵で、糖化と発酵を開放環境で並行して行うという、長い複雑な工程を経るため、人の技術が介在するウエイトが大きく、所謂名杜氏が誕生する基盤ともなっています。さらにワインは製造過程で水を加えませんが、日本酒は仕込み水を大量に用います。藏の設備も大きな影響を与えますが、すべてを切り捨てて論じても、おそらく藏の個性として最後に残るのは、仕込み水と藏の置かれた立地、自然環境、歴史、文化も含めた風土というものになります。 米でいうと農村内の余剰米を酒造にして発生した藏もありますが、例えば当社で言えば、海岸部に密集した漆器職人の街の商業資本が由来であり、むしろ伝統として帆掛け船で原料米を運んできた歴史があります。領主、寺社由来もあれば、水利、運送、市場との距離から成立した大手地域など、さまざまな発生史を酒蔵はそれぞれが持っており、それこそが日本酒におけるテロワールというものだと私は考えます。
当社は、地元の米も使用しますが、酒米は近畿及びその周辺程度の範囲で最良のものを求めていく方針で、これも当社の地域性と個性を構成します。テロワールという用語は慎重に使用したいと思います。
南九州と沖縄を除き、日本の飲酒文化は清酒です。近年多様な種類に消費は分散していますが、これは、豊かさとは選択の幅の拡大である、という見方の反映であり、世間で言われているような、日本酒の地位低下だけとは言えないと考えています。
輸出営業で海外まで出て行くようになり、各国でも食や飲酒の対象が伝統の料理や酒から分散している現象があるのを私も目にしてきました。もちろん過度の食の洋風化を見直すべきとも思い、食育や和食の啓発とのコラボも今後の活動領域として考えていますが、日本酒の飲み方が古くさく若者に避けられたからだとかいう考えは、結果として現象を見ての論であり真を突いていないと思います。 すべてはこれから当社らが供給していく製品の質、取り組みの姿勢にかかっていると思いますので、ご賞味、ご批判のほどお願い申しあげます。